しごとと介護を両立するために 介護の現状と両立に必要なこと

介護の現状と両立に必要なこと

親が高齢になり、近いうちに介護が必要になるのではないかと不安を抱えている人が増えています。介護に直面しても、しごとと介護を両立していくために必要なことや、今からできることを知っていただくために、これから3回にわたってお伝えいたします。

増え続ける高齢者と介護離職者

現在、4人に1人が65歳以上の高齢者ですが、15年後には3人に1人、50年後には2.5人に1人が高齢者になると予想されています。平均寿命(男性80歳、女性86歳)は伸びていますが、健康寿命(男71歳、女性74歳)とは大きな差があります。そのため、親の介護に直面しても働き続けられるように、さまざまな介護サービスや制度が整備されてきましたが、それでも介護を理由とする離職者は増え続け、現在は年間10万人が会社を辞めています。
介護を機に離職する事例で多いのは、介護について考えたことがなく、また普段から頼れる親戚や近所の人間関係が築けていなかったために、介護に直面した時、どこに相談し、どのように対応したら良いのかわからず、時間だけが過ぎていき、これ以上会社に迷惑をかけられないと判断して辞めてしまうケースです。まだ介護に直面していなくても、いつでも起こりうるということを念頭に置いて、事前に情報収集したり、人間関係を築いておくことは、いざという時に離職を防いでくれると筆者は確信しています。

介護の現状

ある調査(※1)によると、介護の平均期間は4年11ヵ月となっています。もちろんもっと短期間の人もいますが、10年以上という人も16%います。また、介護にかかる費用は、月平均7.9万円、住宅改修や介護用ベッドなどの購入にかかる一時金は80万円となっています。つまり、中長期にわたって介護をしていくためには、安定した収入を確保する必要があります。
また厚生労働省の調査では、介護をしている人は、4人に1人はうつ状態、65歳以上で老々介護をしている人の3人に1人は「死にたいと思う時がある」と回答しているように、介護をしている人の精神状態はつらい状況にあります。介護を親や他の兄弟姉妹に任せっぱなしにするのではなく、たとえ自分がしごとをしていたとしても、介護している人をねぎらったり、息抜きの時間が持てるように配慮することは、とても大切なことなのです。
※1 公益財団法人生命保険文化センター H27年度「生命保険にかかる全国実態調査」

家族や自分以外の手も借りて介護をする

家族の人数の減少、独身者が増加している今の日本では、家族や自分だけで介護をすることは困難になっています。自分が働いている場合、しごとと介護の板挟みで心身ともに疲れた状態で介護をするよりも、必要な時には介護のプロに任せてしまおうと割り切ることも大切です。他人の手を借りる(=介護サービスを利用する)ことで、気持ちに余裕ができ、親とも良好な関係のまま介護が続けられると思考を転換してみてはいかがでしょうか。

介護に直面していなくても今からできること

今からできること

□親と定期的にコミュニケーションをとる 
※難しければ週に1回メールを交わすでもOK
□保険証の場所、生保の加入状況、預入銀行名などの情報収集□地域包括支援センター、社会福祉協議会に行ってみる□会社の就業規則を読んで利用できそうな制度を知る
□親の健康状態を把握する
※かかりつけ医、持病、服薬、健診結果など
□今の暮らしへの不安や困ったことを知る□民生委員、ご近所にご挨拶
□仕事の進め方を再考する
※情報共有、脱属人化、体制など
□親の知人友人関係を知る□家のリフォーム、高齢者仕様の生活用品を取り入れる
※見守り商品(電気ポット、配食、GPS端末、緊急時ブザーなど)も検討する
□配偶者、子供と介護に直面した時の対応を話し合う□職場でのコミュニケーションを心がける
□生活スタイルを知る
※趣味、一日の過ごし方など
□介護費用を蓄える
□兄弟、親戚と親の介護について話し合う□介護施設の見学、宿泊体験

情報収集

たとえば次のような親の日常や考えを理解しておくことにより、急に介護になった時にも治療や介護の方法を選択する際に、役に立ちます。
・日常生活について・・・起床就寝時間、趣味、その他の習慣など
・懇意にしている人、お世話になっている人(かかりつけ医を含む)
・健康状態や健康に関する不安
・介護を受ける時の希望・・・在宅か、施設か
・経済状況や生命保険の加入状況

介護しやすい環境を整える

親によっては、介護のためとはいえ、ヘルパーなど家族以外の人が家に入ることに抵抗を示す人がいます。まだ介護が必要な状態ではなくても、民間の業者やシルバー人材センター等を利用して、月1回程度でも家事支援サービスを試してみることで、親が人の手を借りることに少しずつ慣れてくるかもしれません。またバリアフリー化や、洋式トイレ、手すり、電磁調理器の設置なども有効です。

施設の見学

もし民間の介護付き老人施設の利用を考えているのであれば、ぜひ親と一緒にいくつかの施設を見学し、気になるところがあれば宿泊体験をされると良いでしょう。民間の介護施設は、日常生活上の見守りが中心のところ、看取りまで対応してくれるところ、認知症の人は入所できないところなどさまざまです。介護施設の利用を漠然と考えているよりも、実際に足を運んで見学することで職員の様子や施設の雰囲気、費用の目安などが具体的になり、親と家族が望む施設はどういうものなのかが明確になってくるはずです。

ご近所との関係づくり

親にはなるべくご近所とのつきあいを大切にしておいてもらいましょう。またあなた自身も親の住む地域の人々にはあいさつをしておくといざという時に頼りになります。筆者の父親は遠方で一人暮らしですが、帰省の際は「父がいつもお世話になっています。何かありましたらご連絡ください」とあいさつを欠かさないようにしたところ、怪我をして救急車で運ばれた時や、旅行で数日雨戸が締め切られていた時などに連絡してくれるようになりました。
たとえば認知症の傾向が現れた時にも、遠方に住んでいればなかなか気がつきませんが、ご近所の方であればいち早く気がついて知らせてくれるでしょう。

しごとと介護の両立のポイント(図表2参照)


筆者は介護に携わりながら働き続けるには次の3つのポイントがあると考えています。
①介護保険、自治体、民間の介護サービスの内容を把握して、上手に利用すること
②会社の制度を利用しながら、介護に充てる時間を確保すること
③介護に係る人(家族・親族、医師、ケアマネジャー、ヘルパー、施設職員、行政担当者、ご近所の方々等)、会社の人(上司、同僚、部下等)とコミュニケーションを取って良好な関係を築くこと
①②はともに介護に直面した時に具体的に選択していくことになりますが、まだ介護には至っていない今の時点でも全体像を知っておくだけで初動が違ってきますので、次回以降にお伝えする予定です。
また③のなかでも親や家族・親族、ご近所の方々との関係を築いておくことは一朝一夕には行かないことなので、この点が不足していると感じている方は、意識的にコミュニケーションをとり、良好な関係を築いていくことが必要です。

教えてくれた人・・・

特定社会保険労務士 /キャリア・コンサルティング技能士2級
大学卒業後、化粧品会社、専門商社にて企画業務に従事。平成10年に社会保険労務士試験合格後は、厚生労働省東京労働局にて次世代法を担当。専門領域は、育児・介護の両立支援、テレワーク導入、多様な働き方、女性活躍等の分野。平成22年に独立開業し、現在は顧問先の労務管理、手続き業務のほか執筆、講演、コンサルティングを多く手がける。
主な著書は「仕事と介護両立ハンドブック」(生産性情報センター)、「さあ、育休後からはじめよう」共著(労働調査会)、「ダイバーシティマネジメントの実践」共著(労働新聞社)。

グラース社労士事務所代表 新田 香織(にった・かおり)

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